ライムフェスト
第47回グラミー賞“Rap Song Of The Year”を獲得した「ジーザス・ウォークス」で、カニエ・ウェストとともに表彰されたライムフェスト。その興奮も冷めやらぬまま、今夏Allido Records/J Recordsより己の鋭い才知とユーモアのセンスで、トラックからトラックへとすさまじい勢いを放つ待望のデビューアルバム『ブルー・カラー』をリリースする。



アンダーグラウンドとミックステープのスターとして、また、無名時代のエミネムを含む数多くのラッパーたちを倒した経歴をもつヒップホップ界のバトルラッパーとして名を馳せてきたライムフェストは、本デビュー・アルバム前には『Mark Ronosn’s Presents Rhymefest in A Star is Born』で聴くことができる。これは50セントvsゴーストフェイスや、ネリーvs KRS-ONEといったバトルを堪能できる「Exclusive Freestyle Battle」をフィーチャーしているが、実は全部ライムフェストの華麗な物真似ラップだ。この作品に収録された注目トラックには、他に「Some of These Days」「Dirty Dirty(remix Feat. Dirt McGirt)」、そしてカニエとトウィスタをフィーチャーしたシカゴに捧げる歌「Chi-Town」などがあげられる。



「つまらないものには我慢できない」と言うライムフェストは、衰退の道をたどるヒップホップ界を蘇らせる新たなサウンドを提供している。カニエ・ウエストにマーク・ロンソン、No-I.D.、クール&ドレーらのプロダクションで脇を固めた『ブルー・カラー』は、単に楽曲を寄せ集めたアルバムではなくエピックといえる出来栄えだ。胸を打つ「テル・ア・ストーリー」から滑らかなフロウの「フィーヴァ」まで、アルバムのトラック全てがライムフェストの持つさまざまなスタイルを紹介している。



近頃シカゴからはフレッシュなサウンドがたくさん流れ出している。カニエ・ウエストのリズミカルなアンセムから、コモンの口ずさむ街角の出来事、トウィスタが放つ早口のライムなど、この地は第一線で活躍するラッパーやプロデューサーを多く生み出し、ヒップホップで有名な他の地域と肩を並べるまでになった。しかしゲームの頂点に君臨し続けるためには、舞台のそでで出番を待つ新たなラッパーが必要だ。誰にも負けないフロウのできる人物が。



2005年、ライムフェストと名乗る男がシカゴでラップバトルのようなことをやっていた。マイクを持つ前から緊張でガチガチになってしまうことで有名だったが、それでも彼はその街最強のラッパーのひとりとして評判を高めていた。「つまらないものには我慢できない」とその男、ライムフェストは口にする。メジャーデビュー作『ブルー・カラー』で明らかとなったのは、このヒップホップ界の新入りには毒を吐くスキルが備わっていることだった。



「おれのプロジェクトに隠された真のコンセプトは、つまらなくなってしまった現在のラップと戦うことだ。」



カニエ・ウエストの最高のシングル「ジーザス・ウォークス」を共に書き、サンプルを見つけてきたライムフェストについて、神から与えられた使命を持っていると評する声もある。



「オレはメジャーデビューを果たす前にグラミーを受賞した数少ないラッパーのひとりだからね」そう悪乗りする彼は、17歳のころからシーンのなかに身をおいてきた。



「とうとうおれの順番がきたよ」リリースは初めてのことではない。2001年にインディーから『Raw Dawg』というアルバムを発表している。当時はまだ無名だったカニエが楽曲のほとんどをプロデュースした。



地元のプロデューサー、No-I.D.や、J Records傘下のAllido Recordsを手がけるマーク・ロンソンと手を組んだ今回のデビューアルバムで、世界はまもなくライムフェストのマスター(ラップ)プランを知ることになるだろう。



遊び心と男らしさの両方を持ち合わせる彼は、ビズ・マーキーのオールドスクールのユーモアとパブリックエネミーの闘士を抜き出して、独特のヴォーカル・スタイルを編み出している。



「ギャングスターを目指しているヤツらはもう十分いる。おれはごめんだ。ヒップホップに今必要なのは、誠実でしかも人を楽しませることのできるラッパーだよ。」



デビューシングル「ブラン・ニュー」は、うかれたビートに辛辣な言葉をのせるラッパー、カニエ・ウエストのプロデュース。デイヴ・メイヤーズが監督し、「“真新しい”という感覚がいかに人それぞれか、それは物的財産から音楽まで様々だ」ということを伝えるビデオもこの曲のヒットを後押ししている。



「スタジオでカニエは昔のビートを聴かせてくれた。それで“古いビートで真新しいサウンドを作るんだ”ってふざけてたら、しばらくしてそれがそのまま楽曲になってたってわけ」



この『ブルー・カラー』ではマリオ(「オール・ガールズ・チート」)とのコラボレーションがフィーチャーされているが、オール・ダーティ・バスタードのラップも「ビルド・ミー・アップ」に登場している。



「もちろんダーティはこの上ないリリシストだけど、個人的には思うのは、それよりも歌手として素晴らしい才能を持っているってことだな」ライムフェストはそう断言する。それがジョークかどうかはわからない。



No-I.D.がプロデュースした熱いシングル「フィーヴァー」は、映画『ビート・ストリート』のパーティ・シーンで、夜明けまでまわし続けるDJやボール紙の上でくるくる踊っていた若者たちの姿を思い起こさせる。ペギー・リーの製作したクラシックな歌を、スパニッシュの女性がかん高い声で歌うサンプルを使用。



「本当はオレがどんなにアツイ男か、って歌を書きたかったんだ」とライムフェストは笑う。「それをNo-I.D.に告げると、彼は魔法の帽子からこのトラックを取り出したんだ」



またハードコア・パンクの混沌とした音でスタートする「デヴィルズ・パイ」は、マーク・ロンソンがプロデュースしたクールな楽曲だ。ディアンジェロのキャッチーな同タイトルの曲を、世界にはびこる病を伝えるためにサンプルとして使った。みじめな困窮、イラクの通りでボロボロになっている仲間たち、刑務所の中にいる父親、彼らに対するライムフェストの心を動かす語りは、クラックよりもずっと病み付きにさせる。



「借りはないとサタンに伝えてくれ」彼はそう吐き出す。

 同様にシリアスな楽曲では、おそらく「シスター」が一番痛々しいだろう。世界のあちこちで絶望的に生きてい“シスター”たちのもとへ、ライムフェストはリスナーを誘い、そしてあまりに多くの女性が虐待に耐えているのだと伝えている。ピアノの音にあわせて彼は毅然と「辛くない試練はない」と言う。



映画『Good Times』や『Cooley High』でカットされたシーンのように、サウスサイド出身者は激務もしようがないと思い、仲間とビールを飲みながらジョークを飛ばし、子供の面倒を見ながら彼女に愛をささやく。『ブルー・カラー』というアルバムでライムフェストがデビューしたのは、まさしくこういった黒人男性の複雑さを単純な世界に知らしめるためなのだ。