トビー・ラヴ
トビー・ラヴは、ニューヨーク・ブロンクス生まれでプエルトリコ系移民の両親を持つ、いわゆるプエルトリカン(ちなみにジェニファー・ロペスやその夫のサルサ歌手マーク・アンソニーなども同じくプエルトリカン)。R.ケリーやマイケル・ジャクソンといったソウル/R&Bから、サルサのエクトル・ラボーをはじめとするラテン・ポップ・スターの影響を受けている。



ニューヨークをベースにした人気ラテン・ポップス・グループ、アベントゥーラにヴォーカリストとして参加し、バチャータを現代的に解釈したポップ・ヒットを次から次へとチャートに送り込んできた。



満を持して制作された今回のファースト・ソロ・アルバム『Toby Love』(邦題:『恋のバチャータ』)では、レゲトンの新星ラキム&ケン・Yをフィーチャーするなど、バチャータだけでなくR&Bやヒップ・ホップのエッセンスも取り入れた、新しいラテン・ミュージックを作り上げている。2006年秋に発売されると同時にアメリカおよび中南米で大ヒットし、シングルカットされた「Tengo Un Amor」もビルボード・ラテン・チャートのベスト5に食い込んだ。



シャキーラ、フアネス、タリア、RBD、ダディ・ヤンキーなどなど、増大し続ける今のラテン・シーンのなかでも、もっとも注目を浴びるひとりといえる。



バチャータって?



バチャータとは、ドミニカ共和国の歌謡曲的な大衆音楽のこと。キューバのソンやボレロといった、ロマンティックなラテン・サウンドから派生したといわれている。1960年代頃から下層階級や地方出身者を中心に、食堂や大衆酒場のような場所で歌われていたものが原型で、音楽的には長い間蔑視されてきた。



一般的に知られるようになったきっかけは、ドミニカ共和国を代表するアーティスト、フアン・ルイス・ゲーラが1990年に発表した『Bachata Rosa』(邦題:薔薇のバチャータ)。全世界で400万枚以上のセールスを記録し、グラミー・ベスト・トロピカル・ラテンアルバム賞も受賞。



これと前後して、テクノ・バチャータという現代的なサウンドを作り上げた女性シンガーのソニア・シルベストレ、民俗学者でもあるビクトル・ビクトル、「ボイ・パジャ」の大ヒットで知られる庶民派のアントニー・サントス、男女デュオのモンチー&アレクサンドラなどが、バチャータ・シーンを活性化。



その後、ドミニカ移民の多いニューヨークを中心に、第二次バチャータ・ブームが巻き起こる。その先鋭となったのがトビー・ラヴも参加するアベントゥーラ。R&B、フラメンコ、レゲトンなど多ジャンルを取り入れながら進化したバチャータ・サウンドでブレイク。2002年のシングル「Obsesion」が爆発的ヒットとなり、アメリカや中南米だけでなく、イタリアやスペインなどヨーロッパ各国でもチャート1位を獲得するなど世界中に飛び火した。その後も、エクストリームやドメニク・Mといった新感覚の若手バチャータ・アーティストが続々と登場した。



バチャータの音楽性とダンス



甲高くペケペケと鳴るギター(レキントといわれる高めにチューニングされたものがよく使われる)、ボンゴとグイロの軽快なミディアム・テンポのビート、そしてひたすら甘い声で歌われるキャッチーなメロディ。これが一般的なバチャータのサウンド。政治、ゴシップ、恋愛(セクシュアルなことも)といったメッセージ性の高い歌詞が多く、方言やダブル・ミーニングも多用される。



他のラテン・ダンス同様に、バチャータはカップルで密着して踊るセクシーなダンス。(以前ブームになったランバダに近いといえばわかりやすいか?)ミディアム・テンポのバチャータは踊りやすく、サルサのステップは早すぎて難しいという初心者でも踊れる。最近は日本でも、人気のサルサ・クラブではバチャータ・ダンス・タイムは定番になっているし、バチャータ専門のダンス・レッスンも盛ん。また、スポーツ・クラブでも続々とバチャータのクラスが増えてきている。