ワム!

 ワム!はジョージ・マイケル(本名イェオルイオス・キリアコス・パナイオトゥ、1963年6月25日生、2016年12月25日没、享年53歳)とアンドリュー・リッジリー(本名アンドリュー・ジョン・リッジリー、1963年1月26日生)のイギリス人男性2人による、ブルー・アイド・ソウルを基調にした音楽性を持つポップ・デュオで、1980年代イギリスを起点に「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」「ケアレス・ウィスパー」「ラスト・クリスマス」などの世界的ヒット曲を放つなど絶大な人気を誇った。ジョージは1986年デュオ解散後もソロ活動に進み、世界的なポップシンガーとして、またR&BファンやR&B系アーティスト達からのリスペクトを受けた人種の壁を超える支持を得たスーパースターとして絶大な人気を誇った。しかし当時はまだLGBTQ+に対する一般的理解が進んでいない中、ゲイをカミングアウトし批判を受けるなどキャリアの後半は波乱に満ちた人生を送り、2016年12月に自宅で死去。ワム!は解散し、ジョージはもういないが、未だ健在なアンドリュー共々、ワム!の音楽が80年代に世界に与えたインパクトの遺産は特にブルー・アイド・ソウル系の新しいアーティスト達の間に脈々と受け継がれている。

 イギリス南東部ハートフォードシャーの中学校の同級生だったジョージとアンドリューは、他の同級生5人とスカのバンドを結成して音楽活動を開始、しかしほどなく解散後、2人で後にワム!となるグループを結成してキャリアをスタートした。1982年に新しいインディ・レーベル、インナービジョンとの契約にこぎつけた2人は同年デビューシングル「Wham Rap(Enjoy What You Do)」をリリースするも不発。しかし続いてリリースした「ヤング・ガンズ」が、運良く人気TV音楽番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演したパフォーマンスも功を奏して全英ヒットチャートにチャートイン、その年の12月には3位に上る大ヒットになりブレイクを果たす。翌年リリースしたアルバム『ファンタスティック』、勢いを駆って再発した「Wham Rap」そして「バッド・ボーイズ」「クラブ・トロピカーナ」が立て続けにヒットし、一躍当時チャートを席巻していたカルチャー・クラブやデュラン・デュランらと並ぶポップ・スターとして一気にイギリス中の人気を集めた。この時期日本でも「クラブ・トロピカーナ」はそのオシャレでアップビートなサウンドが日本各地のカフェバーやディスコで人気を呼び、この後のワム!の日本での爆発的人気につながっていった。

 1984年に入り、インナービジョンとは契約の問題で袂を分かった2人は、コロンビア/エピックと契約し、彼らがイギリスだけでなく全米そして世界で大ブレイクしたシングル「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」が世界中で大ヒット。折から音楽ファンの間で人気を呼んだMTVへの露出などもあり、はじけるようにキャッチーなこのポップ・ソングは英米で見事1位を記録。一方続くシングルの「ケアレス・ウィスパー」はそれまでの路線とは一線を画す、ジョージがエモーショナルに歌う叙情的なR&Bバラード(UKではジョージ・マイケルのソロ名義)で、2曲連続英米ナンバーワンを記録、USではこの年のビルボード誌の年間シングル1位となるなど、ワム!の世界的人気を決定づけ、日本でもオリコン洋楽シングルチャートで1位を記録、西城秀樹や郷ひろみら日本のスターたちも相次いでカバーするなど、ワム!の人気はこの時期日本でも絶頂となった。この年12月にリリースのセカンド・アルバム『メイク・イット・ビッグ』も英米そして日本でもナンバーワンを記録、同時期に「恋のかけひき」との両A面でリリースされた「ラスト・クリスマス」は日本とUKで大ヒット、その後も定番クリスマス・ソングとして毎シーズン日英米のチャートに登場している。

 1985年はワム!が世界中にツアーで飛び出していった年。1月に初来日公演で世界ツアーをスタートした2人は、3月には西側のポップ・グループとしては初めて中華人民共和国でライブを敢行した。この時の様子は後にドキュメンタリー映画『Wham! In China: Foreign Skies』(1986)や、シングル「フリーダム」のMVで観ることができる。イギリスに戻って7月にウェンブリー・スタジアムで開催されたライブ・エイドに参加。クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』 (2018)にも印象的に描かれていたあのクイーンのパフォーマンスが行われたこの世界的チャリティ・イベントでエルトン・ジョンのステージに参加し、ジョージはエルトンと「僕の瞳に小さな太陽(Don’t Let The Sun Go Down On Me)」を熱唱、改めてその存在感を示した。

 ところがこうした世界的人気絶頂のさなか翌1986年春に、ジョージがより成熟した音楽スタイルでソロ活動に集中したいという理由で突如2人は解散を発表。UK最後の1位、US最後のトップ10ヒットとなったラスト・シングル「エッジ・オブ・ヘヴン」とそれを含むアルバム『ザ・ファイナル』、そしてこの年の6月にウェンブリー・スタジアムで開催された解散コンサートで、レコードデビューからわずか4年間で世界的なポップ・スーパースターの座に駆け上がったワム!の歴史には幕が引かれた。

 ジョージはワム!解散後、華々しいソロ活動を続け、アルバム『Faith』(1987、US/UK 1位)、『Listen Without Prejudice Vol. 1』(1990、US 2位/UK 1位)、『オールダー(Older)』(1996、US 6位/UK 1位) など数々のヒット・アルバムや「I Want Your Sex」(1987、US 2位/UK 3位)や「Faith」(同年、US 1位/UK 2位)などなど多くのヒット曲を送り出した。一方のアンドリューは1990年に唯一のソロ・アルバム『Son Of Albert』をリリースした後はほぼ音楽業界から引退。その後ワム!再結成の噂などもあったが、アンドリューが1991年ロック・イン・リオでのジョージのステージにゲスト出演した時を含め2回ほどステージを共にした以外で2人が共演することはなく、2016年、ジョージが53歳の若さでこの世を去りワム!はその歴史を完全に終えた。

 1980年代、カルチャー・クラブ、デュラン・デュラン、スパンダー・バレエ、ヒューマン・リーグなどなど、UKを発祥に世界中にブレイクしていった多くのポップ・アーティスト達の一つだったワム!は、その中でもモータウンを初めとするアメリカのR&Bやソウル・ミュージックに深い影響を受けていた。それは彼らのデビュー・アルバム『ファンタスティック』でモータウンのミラクルズのヒット曲「Love Machine」が、セカンド『メイク・イット・ビッグ』ではアイズレー・ブラザーズの「If You Were There」がリスペクトを込めてカバーされていたことに如実に表れている。その意味では同様にモータウンを初めとするR&Bを敬愛していたビートルズやローリング・ストーンズら、英国ロックの先達たちの系譜を汲むアーティストでもあったワム!、そしてそれをより成熟したスタイルで追求していったジョージの音楽性は、単なるティーンエイジャー向けポップ・ソングではなく、今聴いてもまったく色あせない普遍性を感じさせるものだ。

 

ディスコグラフィ(カッコ内は原盤レーベル、- 以降は英米でのチャート実績)

1.主なアルバム

1983年  『ファンタスティック(Fantastic)』(Innervision) – US 83位(ゴールド)、UK 1位(2週、2xプラチナ)

1984年  『メイク・イット・ビッグ(Make It Big)』(Columbia) – US 1位(3週、6xプラチナ)、UK 1位(2週、4xプラチナ)

1986年  『エッジ・オブ・ヘヴン(Music From The Edge Of Heaven)』(US・日本のみリリース)(Columbia) – US 10位(プラチナ)

              『ザ・ファイナル(The Final)』(UKのみリリースのベスト盤)(Epic) – UK 2位(プラチナ)

1997年  『ザ・ベスト(The Best Of Wham!: If You Were There…)』(UKのみリリースのベスト盤) (Epic) – UK 4位(2xプラチナ)

2019年  『ラストクリスマス・オリジナル・サウンドトラック(Last Christmas: The Original Motion Picture Soundtrack)』(映画『ラスト・クリスマス(Last Christmas)』のサウンドトラック盤)(Legacy) – US 26位、UK 9位(シルバー)

2020年  『Japanese Singles Collection – Greatest Hits: Wham! Album(ジャパニーズ・シングル・コレクション: グレイテスト・ヒッツ)』(ソニー・ミュージック・ジャパン)

 

2.主なシングル

1982年    「ヤング・ガンズ(Young Guns (Go For It))」- UK 3位(シルバー)

1983年    「Wham Rap! (Enjoy What You Do)」- UK 8位

                 「バッド・ボーイズ(Bad Boys)」- US 60位、UK 2位(シルバー)

                 「クラブ・トロピカーナ(Club Tropicana)」- UK 4位(プラチナ)

                 「Club Fantastic Megamix」- UK 15位

1984年    「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ(Wake Me Up Before You Go-Go)」- US 1位(3週、プラチナ)UK 1位(2週、2xプラチナ)

                 「ケアレス・ウィスパー(Careless Whisper)」(UKではジョージ・マイケル名義のリリース)- US 1位(3週、プラチナ)UK 1位(3週)

                 「フリーダム(Freedom)」- US 3位、UK 1位(3週、ゴールド)

                 「恋のかけひき(Everything She Wants)」(UKでは「ラスト・クリスマス」のB面) - US 1位(2週、ゴールド)UK 2位(シルバー)

1985年    「アイム・ユア・マン(I’m Your Man)」- US 3位、UK 1位(2週、ゴールド)

1986年    「エッジ・オヴ・ヘヴン(The Edge Of Heaven)」- US 10位、UK 1位(2週、シルバー)

                 「哀愁のメキシコ(Where Did Your Heart Go?)」- US 50位

 

*   「ラスト・クリスマス(Last Christmas)」(USプラチナ、UK 5xプラチナ)のチャートイン・ヒストリー

1984〜85年  UK 2位(「恋のかけひき」とのカップリング)

1985年    UK 6位(「恋のかけひき」とのカップリング)

1987年    UK 45位(「恋のかけひき」とのカップリング)

2007年    UK 14位

2008年    UK 26位

2010年    UK 34位

2011年    UK 26位

2012年    UK 34位

2013年    UK 36位

2015年    UK 18位

2017年    US 33位、UK 7位

2018年    US 43位、UK 2位

2019年    US 25位、UK 3位

2020年    US 11位、UK 3位

2021年    US 9位、UK 1位(1週)

2022年    US 7位、UK 2位

2022〜23年  UK 1位(2週)

2023年    US 4位

 

*  USでは、アルバム・シングル共にゴールド=50万枚、プラチナ=100万枚(2x=200万枚)の売上によりRIAA(アメリカレコード協会)が認定。UKではアルバムはシルバー=6万枚、ゴールド=10万枚、プラチナ=30万枚(2x=60万枚)の売上によりBPI(英国レコード産業協会)が認定。2023年5月現在。