リール・ビッグ・フィッシュ
Aaron Barrett / アーロン・バレット ― vocal, Lead Guitar

Ryland Steen / ライランド・スティーン― drums

Dan Regan / ダン・リーガン ― trombone

Scott Klopfenstein / スコット・クロフェンシュタイン ― trumpet, Guitar, Piano, Vocals

John Christianson / ジョン・クリスチャンソン ― trumpet

Matt Wong / マット・ウォング ― bass



カリフォルニア州オレンジ・カウンティのスカ・ロック・グループ、リール・ビッグ・フィッシュが、新作“ウィア・ノット・ハッピー・ティル・ユア・ノット・ハッピー”でリスナーたちに与えられるアドヴァイスがあるとするなら、それはアルバムに収録された‘ドント・スタート・ア・バンド’のタイトルが分かりやすいだろう。

最も成功し不動の地位を築いたサード・ウェーヴのスカ・ロック・アクトというポジションを支えている14年間の深い経験は、明らかに彼らに何かをもたらしたのだ。フロントマンのアーロン・バレットは、自分が買い手に注意を促す最初の人物でなくても良かったのにという。

「誰かが大昔に“ドント・スタート・ア・バンド(バンドを始めるな)”って曲を作っていたらと思うよ」と彼は言う。

「そうしたらこんなに苦労しなかったのに」

 幸運にもそんな楽曲を製作した者は誰もいなかったし、バレットは結局リール・ビッグ・フィッシュの結成に行き着いた。数え切れないほどのツアーに、5枚のアルバム・リリース、Vans Warped Tourに、併せて100万枚以上のセールスといった事柄を経験してきた彼らは、彼らがインスパイアしてきた無数の新進ミュージシャンたちへの社会奉仕と、そのことが結局一連のテーマを持つ彼ら自身の作品の締めくくりを手助けしたことで、(他にも“ワン・ヒット・ワンダフル”や“ラスト・ショー”といった自明的で自虐的な多くの楽曲のなかで)こういったアドヴァイスを提示しているのだ。

「“Turn The Radio Off”と“Why Do They Rock So Hard”と今回の新作は、言ってみれば3部作ってとこさ」とバレットは言う。「“Turn The Radio Off”はスタートしたばかりのバンドで、成功しようと努力しているけれども、他のバンドたちと一緒ではすごく難しい。“Why Do They Rock So Hard”はまるで、“おれたちは成功したけど、みんなは成功するためにおれたちを嫌っている”って感じ。そして今回のアルバムは“もうやめた”ってことなんだ。だからおそらく次のアルバムは“再結成のツアーで大金を稼げるな”ってものになるんだろうよ」

 これは単にアルバムの総体的なキャラクターの話なので心配は無用。

「 “くそったれ、ファック・ユー、音楽業界なんてくそくらえ、もうやめた”っていうのがテーマになっているんだと思う。でもおれたちはまだプレイすることが好きだし、それを生活の糧にもしている。だから実際行動するよりも、書くだけのほうがいいだろ」

 新作“ウィア・ノット・ハッピー・・・”は、バレットの別のバンドであるThe Force OF Evilからやってきたトランペッターのジョン・クリスチャンソンが参加した初のアルバムであり、2002年6月の“チア・アップ!”以来の作品だ。圧倒的な支持を受け、“チアー・アップ”のリリースから何度か訪れているUKを筆頭に、6人はコンスタントにツアーを行ってきた。しかしUKでの一部の悪評は、互いに好意的だったバンドをフィーチャーしたツアーに起因すると考えられる。事実ニュー・アルバムにはモリッシーの“ウィ・ヘイト・イット・ホエン・アワ・フレンズ・ビカム・サクセスフル”の素晴らしいカヴァーが収録されているが、それはキャリアの踏み台としてリール・ビッグ・フィッシュを利用した者たちを突く楽曲なのだ。だがそうは言ってもそのようなサクセスは、このUKツアーの間はリール・ビッグ・フィッシュに有利に働いてはいたが。

「おれたちが何年もツアーに連れ出して、結局すごく有名になったり少なくとも成功を収めたのに、おれたちの恩に報いようとしなかったバンドは沢山いるよ」

 とバレットは言う。トランペッターでギタリストのスコットも続ける。

「恩返ししてくれたのはSum41くらいさ」

「彼らがまだアメリカで殆ど知名度がなかった頃にツアーに連れて行ってあげたんだ」とバレット。「そしてすごくビッグになった後、今度はおれたちをUKツアーに同行させてくれた。当時のおれたちには本当にありがたいことだったよ」

 そしてニュー・アルバムのもうひとつのカヴァー・ソングは、ファースト・シングルとなるトレーシー・チャップマンの“トーキン・バウト・ア・レヴォルーション”だ。レゲエ要素をプラスしたこのチャップマンのトラックは、言うなれば「貧乏人のiPod」にインスパイアされたものだという。

「去年の夏のツアー中に、古いレゲエの曲を入れたMP3CDを再生するだけのヘンな装置を作って“レゲエ・マシン”と名づけたんだ。そしておれたちドレッシング・ルームで毎日それを聴いていたんだよ。古くて音も悪くて最悪な状態で録音されたレゲエだったけど、ホントに最高だった。だからトレーシー・チャップマンの曲を聴いたとき、これは良いレゲエになるなと思ったし、だからわざわざ音の悪いレゲエ・ソングを作ったのさ。これは最高だよ。たぶんおれの最愛の楽曲のひとつと言ってもいい」

 彼らはモリッシーとチャップマンに歌の手がかりを見出したけれども、それらにインスピレーションを与えたのはバンド自身だ。リール・ビッグ・フィッシュというバンドは大学の“ロックン・ロールの歴史”でテキストに用いられてもいる。

「“なぜここで道を誤ったのか?”なんて章だってことに間違いないね」

 リーガンはそう皮肉る。

 バレットとShawn Sullivanがプロデュースしたこの新作では、“ワン・ヒット・ワンダフル”の最後のほうで大学のマーチング・バンドをもフィーチャーしているが、リスナーが彼らを欲し続けているのは、録音された作品から得る刺激だけではない。

「おれたちのファンは最高さ」とクロフェンシュタイン。「リール・ビッグ・フィッシュを見にくれば、ショーを丸ごと楽しめるっていうのが大事なんだ。ショーでおれたちは喋ったりふざけたりいろんなことをしている。オーディエンスは楽しませて欲しいんだよ」

また彼らはバレットの分別(またはその欠如)の重要性も認めている。

「アーロンとは長い付き合いだし、おれたちみんなヤツが大好きなんだ」とリーガン。「コートを着て紐を持った男が彼を連れ去らないようにするのは、おれとスコットの役目なんだ」

“ウィア・ノット・・・”のメッセージがかなり残酷で悲観的に現れていても、リール・ビッグ・フィッシュが未だ健在な理由は、彼らが活動を止めなかったからである。

「止めたいと思ったことは何万回もあるけど、俺たちは10年以上も活動を続け、まだみんなを楽しませてるよ」

リーガンは語る。

「おれたちがどんなふうに成功したのかをキッズたちに尋ねられたらこう言うんだ。1年くらいは運が良かったけど、それ以外はおれたち自身がやり遂げたんだ、ってね。おれたちはバンドのままでいるつもりさ。ファースト・フードで働くような人生に戻るつもりはない。そんなのもうすっかり忘れちまったよ!」

 バレットも付け加える。

「ずっとポジティヴな気持ちでやってきたんだ。ニュー・アルバムはこのバンドの終わりを物語っているわけじゃない。内容がたとえ終焉に関するものだとしても、これは単に始まりに過ぎないんだ」