リキッド・テンション・エクスペリメント

リキッド・テンション・エクスペリメント

数週間ごとに新しいスーパーグループが生まれているかのように思われる今日のプログレッシヴ・ロック界。しかしそれが普通のこととなるはるか前、そしてミュージシャンが2つ以上のバンドを日常的に掛け持ちするようになる前から存在していたのがリキッド・テンション・エクスペリメントである。遡って1997年、マイク・ポートノイ(トランスアトランティック、サンズ・オブ・アポロ)、ジョン・ペトルーシ(ドリーム・シアター)、ジョーダン・ルーデス(ドリーム・シアター)、トニー・レヴィン(キング・クリムゾン、ピーター・ガブリエル)がタッグを組み、リキッド・テンション・エクスペリメントを結成。4人は1998年に象徴的なセルフ・タイトルのデビュー作を、1999年には魅力的な続作『LTE2』をリリースし、ダイナミックかつ熱狂と創意あふれる全く独自のサウンドを生み出すことになる。この集団内での驚異的なクリエイティヴィティをきっかけにペトルーシとポートノイがルーデスをドリーム・シアターに誘ったことにより、このサイド・プロジェクトは事実上終止符が打たれることになったが、それ以来要望により再結成が数回行われてきた。そして世界がロックダウンされメンバーの予定が余儀なく揃った今、信じられないことがついに起こったのだ。それが『リキッド・テンション・エクスペリメント3』である。

2020年7月下旬。自主隔離生活を送っていたポートノイ、ペトルーシ、ルーデス、レヴィンは必要な検査を受けたのち、ニューヨーク州のスタジオで2週間あまり秘密裏に集結し新作づくりに取り組んだ。彼ら4人のミュージシャンは20年以上レコーディングを共にしたことがなかったが、果たして同じケミストリーは生まれたのだろうか?

マイク・ポートノイによると、ほとんどすぐに収まるべきところに収まったという。「確か初日は、まず文字通りひたすらジャムとインプロヴィゼーションをしたんじゃなかったかな。ただ正直言って少し現実離れした感があったけど。ジョンとはその数ヶ月前に一緒に仕事していて、[ジョーダンとトニーとは]年中プレイしていたけど、ある時このスタジオに到着して、ジョーダンとジョンと一緒に部屋の中に立っていたとき、「待てよ、この3人で同じ部屋に入るのは10年以上ぶりくらいじゃないか」と思ったんだ。超現実的な感じだった。で、10分後にはジャムっていた訳だけど、足並みひとつ乱れていないような感覚があった。前回の終わりのまさにその地点に戻ってきたような気がしたんだ」。

ペトルーシは2020年初めにポートノイに再度連絡を取り、最近リリースされたソロ・アルバムへの参加を誘っていたが、今回の再結集はさらに格別だった。「俺のソロ・アルバムでマイクにドラムを叩いてもらったのも良かったけど、このLTEの新作に取り組む機会を得たこともまたワクワクしたよ。何年も経ってからあいつとまた一緒に曲を書いて、同じ部屋でまたレコーディングすることができた訳だからね。しかもジョーダンとトニーも一緒で。今までのブランクがなかったかのような気がしたよ」。

ジョーダン・ルーデスも頷く。「続きのような気がしたんだ。『LTE2』のレコーディングを止めて、その1週間後にスタジオに戻って『LTE3』をやっているような感じだった。すごい言い方だというのは承知だけど、時間が一瞬のうちに、まばたきしている間に過ぎ去ったんだ。俺たちのケミストリーはケミストリーのまま変わっていなかった。あの頃も最高だったけど、今もなおそうなんだ」。

最後に一緒にスタジオに入ってから20年以上が経過していたにも関わらず、このグループの仕事の仕方は変わらなかった。曲は猛烈な勢いで書き上げ、気合を持って臨むことが求められる。トニー・レヴィンによると、経験豊富な才能の持ち主たちにとってはそれがうまくいくのだという。「学習スピードがとても速いんだ。とてもクールなことだよね。とても複雑な10、12、15分の曲を1日でちゃんと作って、それから微調整できる訳だから」。

この20年の間にファンから最もよく訊かれたのが、次の作品はいつ作るのかという質問だったと彼らは認める。近年はツアーなどの状況に実現が阻まれてきたが、2020年のロックダウンでようやく機会ができたことにポートノイは気づいた。「勿論何年も話には出てきたし、知っての通りみんなそれぞれ一緒につるんだり、長年の間に一緒にプレイしてきたメンツもいたりしたけど、いつまたLTEをやるのかという問題はずっとあった。みんなずっとやりたいと言っていたし、タイミングと実行計画さえ合えばという感じだったから、自主隔離によってメンバーの誰もツアーに出ていないという好機ができた。おかげでようやく集まるためのスケジュール枠が見つかったんだ。自主隔離が俺たちにもたらしてくれたいいことのひとつだね」。

新作『LTE3』に収録された8曲の内訳は、書き下ろしが4曲、デュエット2曲、即興的なジャム1曲と、綿密なアレンジが施されたカヴァー。「4曲書き下ろしたんだ。前の2作もそうだったと気づいて、今回もまた同じようにした」とポートノイは説明する。

このグループのアイデンティティはその自発性にあり、彼らはそれを心から受け容れている。「シェイズ・オブ・ホープ」という曲はペトルーシとルーデスが一発録りしたもの。「この特殊なプロジェクトのユニークな性質は、とても自発性主導だということだ」とジョン・ペトルーシは言う。「それがこのプロジェクトがスペシャルである所以だろうね。一緒にやったジャムが雰囲気作りをしてくれたような感じだった。というか、それらのジャムで掴んだ感触から抽出したものを、ジョーダンが持っていたアイディアや俺が持っていたものや、トニーがやったものやマイクがやったものの中で他に影響を与えそうなものと組み合わせたんだ。結果、俺たちのパーソナリティを実にいい形で大きな坩堝の中でミックスしたような音楽が生まれた。しかもものすごく速くね。数週間じゃなくて数日という意味だよ。それがこの作品を本当にスペシャルなものにしてくれた。とても自発性が高いんだ」。

彼らの音楽的なパーソナリティをさらに証明するのが、ジャズの風味を帯びた「リキッド・エヴォリューション」や、ポートノイとレヴィンによるアヴァンギャルドなデュエット「クリス&ケヴィンズ・アメイジング・オデッセイ」である。

メンバーはそれぞれが数多くのアイディアを持ち寄ったが、過去の作品と同様、曲の多くは彼らがスタジオに会したときに書かれた。ルーデスがこう説明する。「最終的に全員の様々なアイディアをまとめたフォルダができた。同じ部屋に一緒にいるとインスピレーションが高まるから、書いたものの大半はセッション中にできたものなんだ」。

「ザ・パッセージ・オブ・タイム」はこのグループが22年ぶりに一緒に書いた曲になった。グループの特徴的なジャムのひとつから派生したアグレッシヴで不穏なギター・リフから始まるこの短いながらも壮大な曲は、様々なテーマを縫うように通り抜け、ルーデスの難解なコード進行をバックに、ペトルーシがその特徴的でテーマを思わせるソロを演奏する。

アルバムを締めくくる13分の大曲「キー・トゥ・ジ・イマジネーション」はこのバンドが知られてきたすべての要素を体現しており、穏やかに始まったのち拍子やコードが幾度となく変わり、背筋がゾクゾクするようなはっとする形で終わる。ポートノイにとってこの曲は『シックス・ディグリーズ・オブ・インナー・タービュランス』や『オクタヴァリウム』といったドリーム・シアター時代の壮大な名作たちを思い起こさせる。一方ポートノイはアップビートな2曲目「ビーティング・ジ・オッズ」を「気分を良くしてくれるパンデミックの曲」と冗談めかして説明する。

最後にスタジオで書いた曲は、演奏が危険なほど速い猛烈なオープニング・トラック「ハイパーソニック」。ポートノイはこう説明する。「アルバムの火蓋を切る曲は文字通り30秒間の一斉射撃で息つく間もない。この世代の男たちが集まってこんなプレイをするなんて誰が思うだろう?手加減のない内容なんだ。このバンドが復活したことの意思表示であることは間違いないね」。

ペトルーシが続ける。「リキッド・テンション・エクスペリメントの伝統を完全に踏襲している作品だ。つまり「プレイ」を押すと、その音に圧倒されるということさ。メロウなもので始まることはあり得ない。クレイジーなスピードやカオスの要素がたくさん入ったものを書くというのが狙いだったからね」。

もうひとつこのアルバムのハイライトとなっているのが、彼らのアレンジによる(ジョージ・)ガーシュウィンの名曲「ラプソディ・イン・ブルー」のスタジオ・ヴァージョン。ポートノイが詳述する。「2008年に一連のショウをやったときに〈ラプソディ・イン・ブルー〉にものすごくクールなプログレのアレンジを施したんだ。ショウに行った人たちは体験することができた。その後そのツアーのライヴCDやDVDを限定盤として出したけど、再編成やオーケストレーションの中でも最高の部類に入るとずっと思っていた。とてもスペシャルなものだから、今回録音してちゃんとリリースするというのはいいアイディアだと思ったんだ」。

高い期待の中このアルバムを作ることに彼らが感じたかもしれないプレッシャーに関しては、ルーデスによると短期間に終わったという。「俺は始める前の方がプレッシャーが少し多かったかもしれないな。期待が大きいことについて考えてばかりいたからね。でも一旦一緒に部屋に入ったら、むしろ“さあ、始めるか”という感じだった。電車が動きだすようにアイディアが流れていって、ひたすらやることをやっていたよ。これがうまく行った理由、そしてみんながこれほど強くアルバムを欲しがってくれる理由は、このケミストリーがうまくいくからだって気づくんだ。とにかく流れがいいからね」。

トニー・レヴィン曰く「唯一のプレッシャーと言えば、晩飯を注文する時だけだったね」。

2020年12月 ロイ・エイヴィン