ヨナス・カウフマン

 現在オペラ界で最も高い人気と実力を誇るテノール。21世紀の「キング・オブ・テノール」「フリッツ・ヴンダーリヒ以来最も重要なドイツのテノール」と称されている。
 1969年7月10日、ミュンヘン生まれ。故郷ミュンヘンのミュンヘン音楽大学で音楽教育を受け、ジェームズ・キング、ハンス・ホッター、ヨーゼフ・メッテルニヒの特別クラスに参加。1994年、ザールブリュッケン州立劇場でプロデビューを飾り、すぐさまシュトゥットガルト歌劇場、ハンブルク国立歌劇場などドイツの主要劇場や、シカゴ・リリック・オペラ、パリ・オペラ座、スカラ座など国際的劇場に招かれるようになった。1999年にはブゾーニの《ファウスト博士》でザルツブルク音楽祭に初出演を果たす。
 2001年から2009年にかけてはチューリッヒ歌劇場に頻繁に出演し、モンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》、モーツァルト《イドメネオ》《皇帝ティートの慈悲》、シューベルト《フィエラブラス》、フンパーディンク《王子王女》などの新演出上演を歌ったほか、《リゴレット》《ファウスト》《魔笛》《コジ・ファン・トゥッテ》《後宮からの誘拐》《ドン・カルロ》《パルジファル》などに出演。2009年にはバイエルン国立歌劇場で《ローエングリン》の題名役を初めて歌い、国際的な音楽ジャーナリズムの絶賛を博した。2010年7月には、同役でバイロイト音楽祭にデビューを果たした。
 コンサートではアバド、ラトル、アーノンクール指揮ベルリン・フィル、ヴェルザー=メスト指揮クリーヴランド管、リリング指揮ウィーン・フィル、ティーレマン指揮ミュンヘン・フィルらと共演。歌曲を「歌のロイヤル・クラス」と重要視するカウフマンはリサイタルの出演にも時間を割き、主にミュンヘンでの学生時代以来の共演歴がある名手ヘルムート・ドイッチュと共に、ヨーロッパ各地でソロ・リサイタルを開催。2011年11月、メトロポリタン歌劇場で開催したソロ・リサイタルは、同歌劇場にとって1994年のパヴァロッティ以来のイベントとなった。
 2011年、フランス芸術文化勲章、米「オペラ・ニュース」賞を受賞。また「オペルンヴェルト」「ディアパゾン」「ミュージカル・アメリカ」などの音楽誌の「シンガー・オブ・ザ・イヤー」に何度も選定されている。
 その歌唱を記録したCDとDVDは数多い。2007年の「ロマンティック・アリアズ」を皮切りとする2013年までのDECCA専属時代には、アバド指揮マーラー室内管、パッパーノ指揮ローマ聖チェチーリア管など世界的な指揮者とオーケストラを起用して録音された4枚分のオペラ・アリア集のほか、ヘルムート・ドイチュとのシューベルト《美しき水車小屋の娘》がある。またソフト化されたこれまでにオペラ全曲盤(しかも演目によっては複数発売)の数と共演者を見れば、カウフマンがここ数年いかに欧米の名だたる歌劇場から引っ張りだこの世界的な活躍を行なっているかがよくわかる(*は映像でのリリース):2002年 パイジェルロ《ニーナ、または恋狂い》(バルトリ、A.フィッシャー指揮チューリヒ歌劇場/ARTHAUS*)、ウェーバー《オベロン》(マルティンペルト、ガーディナー指揮革命浪漫管/PHILIPS) 2005年 モーツァルト《皇帝ティートの慈悲》(メイ、ハルテリウス、カサロヴァ、ウェルザー=メスト指揮チューリヒ歌劇場/EMI*) 2007年 ビゼー《カルメン》(アントナッチ、ダルカンジェロ、パッパーノ指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場/DECCA*) 2008年 プッチーニ《蝶々夫人》(ゲオルギュー、パッパーノ指揮ローマ聖チェチーリア管/EMI) 2009年 ワーグナー《ローエングリン》(ハルテロス、ナガノ指揮バイエルン国立歌劇場/DECCA*)、プッチーニ《トスカ》(マギー、ハンプソン、カリャニーニ指揮チューリヒ歌劇場/DECCA*) 2010年 マスネ《ウェルテル》(コシュ、プラッソン指揮パリ国立オペラ座/DECCA*)、ベートーヴェン《フィデリオ》(シュテンメ、シュトルックマン、アバド指揮マーラー室内管、ルツェルン音楽祭管/DECCA)、チレーア《アドリアーナ・ルクヴルール》(ゲオルギュー、ボロディナ、エルダー指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場/DECCA*)、フンパーディンク《王の子供》(レイ、メッツマッハー指揮チューリヒ歌劇場/DECCA*) 2011年 ワーグナー《ワルキューレ》(ヴェストブロック、レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場/DG*)、プッチーニ《トスカ》(ゲオルギュー、ターフェル、パッパーノ指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場/EMI*]) 2011/12年 ワーグナー《ワルキューレ》(カンペ、ゲルギエフ指揮マリインスキー管/MARIINSKY) 2012年 ビゼー《カルメン》(コジェナー、キューマイア、ラトル指揮ベルリン・フィル/EMI)
 2013年、ソニークラシカルからの専属契約第1弾として「ヴェルディ・アルバム」が発売され、2014年にはシューベルト「冬の旅」が発売される。
 なおカウフマンの最初のソロ・アルバムは、2005年5月にベルリンで録音されたハルモニア・ムンディ・フランスへのR.シュトラウスの歌曲集と思われる。