新作『アンブレイカブル』全米1位記念!ジャム&ルイス日本独自インタビュー第4弾公開!(連載4回)
(インタビュー/文:荘 治虫 通訳:渡瀬ひとみ)
ジミー・ジャム:素晴らしい人だよ。とても面白くて、落ち着いた感じの人。食べるのが大好きだから、僕らは彼のことをfoody(食べるの大好き人間)って呼んでいるんだ。グルメなんだよね。レコーディングの最後の方では、いろいろなごちそうを運んで来てね。それをテーブルに全部並べて……。僕らはアルバムの曲順とかを考えていたんだ。そうしたら、「こんなに食べ物あるのに、どうするの?」って彼が言い始めて。「わかった、じゃあ、食べよう、食べよう!」って最終的にはなったんだ。恋愛関係においてこういったバランスって大事だと思うんだよね。ジャネットが彼女自身でいられる場を与えてあげなければならない。「今日はぐっすり寝て、明日にでもまた取り組めば?」って言ってくれる人が必要なんだよ。マッサージをしてあげるとかね。そういうところが彼にはあるんだ。僕らはかれこれ30年も一緒に仕事をしてきているから、彼女は言わば娘のようなもの。彼女がちゃんと扱われているというのは僕らには大事なことなんだ。あと、彼はかなりの音楽ファンでもあるんだ。ジャネットの音楽を気に入っているというだけでなくて、僕らの作品もよく知っていたよ。過去に作って来た作品、ザ・タイムとかモーリス・デイの時代の曲なんかの話にもなった。そういったレコードのファンだったらしいんだ。彼は彼女の人生の中でポジティヴな一面なんじゃないかな。
ザ・タイムは、80年代初頭にジャム&ルイスが所属していたプリンス一派のバンドであり、現在ディアンジェロ&ザ・ヴァンガードのギタリストを務めるジェシー・ジョンソンもいた伝説的なグループだ。ちなみにザ・タイムは2011年にオリジナル7ヴンという別名でリユニオン・アルバムをリリースし、ミネアポリスらしいファンクを聴かせてくれた。
結婚生活については芸能界の常でいろいろと噂されているものの、ジミー・ジャムの話によればどうやら安泰のようだ。とはいえ、大富豪と結婚した彼女は経済的な面では稼ぐ必要はないわけで、一部報道にあったように引退してしまうのではないかという危惧は残る。しかし、その点も問題ないようだ。ジャネットは自身のレーベルに身を置くことによって、契約に縛られることなく自分の作りたい音楽を作っているのだ。
ジミー・ジャム:それがこのプロジェクトのスペシャルなところ。彼女がやりたいと思って作っているプロジェクトなんだ。音楽を作りたいと思っていなくても、必要に迫られて作っている人が多いと思うんだよね。経済的な理由だったり、レコード契約上そうせざるを得なかったり、人に何かをさせるモチヴェーションってありとあらゆることがあると思うんだ。彼女の場合、すごく純粋なところから来ている。ジャネットは別にこれをやらなくてもいいんだ。実際に彼女は3、4年まったく音沙汰なく世の中から消えていた。ナンバー・ワンズ・ツアー(2011年)以外は世の中から姿を消していた。そして、普通の生活をしてあらゆることを観察していたんだ。舞台裏では、ユニセフのことをやったり、キッズ達のことに関わったりしていた。そういうことって彼女はあまり声を大にして言ったりしないんだけど、彼女の音楽によくよく耳を傾けると、彼女が見てきたことを連想させるような音が聞こえてくる。世界中を回って、舞台裏でいろいろな人を助けたりして、それを公にするわけでもなく、ただやってきた。それらすべてのことでこのレコードは出来上がっている。素晴らしいことだよね。『リズム・ネイション』の素晴らしかったところは、とても若くて、言いたいことを言って、ちゃんとものごとを判断して、観察して臨んだもの。今では、今回の「ウェル・トラヴェルド」にあるように、実りある旅をする目と精神を持って見ていかなければならない。彼女も変化している。ものごとに取り組む時も以前ほどはナイーヴではない。……「シュッダ・ノウン・ベター」っていう曲があるんだけど、そこでこんなことを歌ってる。「わたしが若い時、こんな風に思っていたけど、『リズム・ネイション』、あれは夢だった。次はもっと現実を分かってものごとに臨んでいる」って。
――確かに今回はあらゆることについて触れているようですね。ジャネットはイスラム教に改宗し、今回のアルバムの歌詞にはアッラーの名前も登場しています。
ジミー・ジャム:そうなんだ。彼女は自分の信仰についても触れている。さっきの「アンブレイカブル」についての話じゃないけど、信仰もひとつのアンブレイカブルなもの。彼女と信仰との関係性のことでもある。これが基本となるものだと思うんだ。スーパースターであっても、普通の人であっても、関係ない。今言ったことすべてが大事なこと。基盤があり、ルーツがあり、家族や、友達、信仰が自分の人生にあればいい。彼女はそういったものを見つけたと思っている。それはいいことだ。彼女は心地好い場所にいると思う。このレコードはとても心地好い場所にいるレコード。すべてが彼女っぽく聴こえている。ほかの誰にもなろうとしていない。彼女のベストを出したものだ。
かつてジャネットはジャクソン家を取り仕切る父の呪縛にがんじがらめにされ、自分の望みとは関係なくシンガーとしてデビューし、その後も、たびたびレコード会社の思惑や契約、パートナーからの干渉などに翻弄されてきた。しかし、いまの彼女にはそういった存在はないのだろう。そして、伝えられるメッセージもすべて彼女自身の本心から出てきたものだ。ジミー・ジャムが言うように、『アンブレイカブル』はこれまでの作品の中で、もっとも彼女らしさが出ているアルバムなのかもしれない。
――最後に日本のジャネットのファン、そしてジャム&ルイスのファンにひとことお願いします。
ジミー・ジャム:僕のメッセージはただ単にサンキューだ。長年が過ぎても、人々がまだ僕らの新しい音楽を聴きたがっているということ。僕らは、人々が自分自身のサントラとして楽しむような良い音楽、音楽的な遺産を残して来れたと思う。新しいものはもう聴きたくないなんて言われてしまうアーティストたちもいる。人々が僕らのコラボ作品で何か新しいものを聴きたがっているなんて、とても恵まれたことだ。そういった人々を失望させくない。みんなにエンジョイしてもらいたい。だから、どうもありがとう! とにかく単純にサンキューって言いたい。
テリー・ルイス:同じく!