ヨーヨー・マ

チェロ奏者ヨーヨー・マのきわめて多岐にわたる活動は、彼が聴衆とのコミュニケーションの方法を絶えず模索し続けてきたこと、ヨーヨー・マ本人が彼自身の芸術的な成長と革新を望んでいることを物語っている。新作の協奏曲を演奏する時だろうと、チェロのおなじみのレパートリーを弾く時、あるいは仲間と集まって室内楽を演奏する時、異文化の、西洋クラシック音楽以外の音楽形式に挑戦する時だろうと、ヨーヨー・マは想像力を刺激するつながりを常に見出そうとする。 ヨーヨー・マはソニー・クラシカルと独占契約を結んでおり、その50枚を越えるアルバム(うち15枚がグラミー賞を獲得)は彼の幅広い興味、関心を反映している。最新アルバムは2004年9月に全世界でリリースされた「ヨーヨー・マ プレイズ・モリコーネ」。2003年には2枚のアルバムを発売し、1枚はチェロとピアノのためのフランス音楽作品集「パリ~ベル・エポック」でフォーレ、マスネ、サン=サーンスのヴァイオリン名曲を自らチェロ用に編曲し、ストット(ピアノ)と共演している。もう1枚、ブラジル音楽界のスペシャリストたちをむかえて録音した「オブリガード・ブラジル」*が世界的なベスト・セラーとなりヨーヨー・マにとって15枚目のグラミー賞受賞アルバムとなった(*2002年録音。ホーザ・パッソス、エグベルト・ジスモンチ、パキート・デリヴェラ、セーザル・カマルゴ・マリアーノらが参加)。このアルバムに関連したコンサート・ツアーも行われ、NY公演を収録したライヴ・アルバムも2004年2月にリリースされた。これまでにもヨーヨー・マは、ボビー・マクファーリンとの『ハッシュ』、マーク・オコーナー、エドガー・メイヤーとの『アパラチア・ワルツ』と『アパラチア・ワルツ2』(グラミー賞獲得)、『ヨーヨー・マ プレイズ・ピアソラ』など、ジャンルを超越した録音で成功を収めている。これだけたくさんのアルバムを出しながら、ヨーヨー・マはクラシック界で最もよく売れるレコーディング・アーティストの1人であり続けている。 ヨーヨー・マは、ソリストとしてオーケストラと共演し世界各地で活躍する一方、ソロ・リサイタルと室内楽の演奏にも力を注いでおり、両者をバランスよく活動している。ヨーヨー・マは非常に幅広いジャンルにわたる共同作業からインスピレーションを引き出し、エマニュエル・アックス、ダニエル・バレンボイム、クリストフ・エッシェンバッハ、パメラ・フランク、ジェフリー・カヘイン、ケイハン・カルホール、トン・コープマン、ハイメ・ラレード、ボビー・マクファーリン、エドガー・メイヤー、マーク・モリス、マーク・オコーナー、故アイザック・スターン、キャサリン・ストット、ウー・マン、ウー・タン、デヴィッド・ジンマンといったアーティストたちと組んでプログラムを作り上げてきた。こうしたコラボレーションのどれもが、アーティスト同士の相互作用からエネルギーをうみ出し、それがジャンルの境界線の超越につながってゆく。ヨーヨー・マの目標の1つは、コミュニケーションの手段としての音楽、世界中の文化の垣根を越える思想の交流の手段としての音楽の追求である。その目標を達成するために、彼は独特の楽器を使う中国固有の音楽や、アフリカのカラハリ砂漠周辺の民族の音楽など、実に多様な音楽にたっぷりと時間をかけて没頭してきた。 この方面への関心をさらに深めたヨーヨー・マが創設したのが「シルクロード・プロジェクト」で、地中海から太平洋まで伸びていた古代の貿易路シルクロード沿いの地域の文化・芸術・知的伝統の研究を推進させようというプロジェクトである。この広大な地域における思想の流通を探求することによって、プロジェクトはシルクロード諸国の文化遺産を照らしだし、その伝統を現代において体現している“声”を突き止めることを目指している。シルクロード・プロジェクトが母体となって、様々な文化プログラム、教育プログラムが組まれ、数多くのフェスティヴァルにも参加している。2002年にはスミソニアン・フォークライフ・フェスティヴァルに出演した。

ヨーヨー・マはパリで生まれた。4歳から父親にチェロを学ぶ。間もなく一家でニューヨークに移り、そこで音楽家ヨーヨー・マの形成にとって最も重要な数年間を過ごした。その後はジュリアード音楽院でレナード・ローズなどに師事。音楽院でのトレーニングだけでなく伝統的な教養科目の教育を受けることを望んだヨーヨー・マは1976年にハーヴァード大学を卒業した。

ヨーヨー・マは1983年発売の「バッハ:無伴奏組曲全曲」で初受賞して以来これまでグラミー賞を19回受賞している(2023年10月現在)。 9人のアメリカ大統領の前で演奏した経験を持つ。全米芸術賞、大統領自由勲章、ビルギット・ニルソン賞など数々の賞を受賞。2021年には高松宮殿下記念世界文化賞も受賞した。2006年より国連平和大使を務め、TIME誌の「2020年最も影響力のある100人」の一人に認定された。

2020年3月コロナ禍で、自宅から「ドヴォルザーク:家路」の演奏映像を#SongsOfComfortとしてSNSに投稿。 その動画は瞬く間に世界中へ拡散され、かつて経験したことのないパンデミックに直面し不安と孤立感にさいなまれる 私たちに一時の安らぎと希望をもたらした。それに着想を得てピアニスト=キャサリン・ストットとアルバム 「ソングス・オブ・コンフォート」を同年12月リリースした。

2018年には3度目のバッハ:無伴奏全曲録音を発表した。20代、40代で挑んだヨーヨーは60代での録音が最後の全曲録音になると語っている。
2022年には90歳となったジョン・ウィリアムズとの共演作「ギャザリング・オブ・フレンズ」をリリース。1994年7月タングルウッドのセイジ・オザワ・ホールのこけら落とし公演で初演した、ヨーヨー・マを想定して作曲したという「チェロ協奏曲」も収録している。
現在はベートーヴェンの交響曲をエマニュエル・アックス、レオニダス・カヴァコスとのピアノ三重奏で演奏するプロジェクトを進行中。

ヴェネツィアのモンタニャーナによる1733年製と、1712年製のダヴィドフ・ストラディヴァリの2台のチェロを愛用している。
2023年9月現在